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リモートセンシングデータによる富栄養化のモニタリングについて紹介します。
富栄養化事例

●「衛星リモートセンシングデータによる環日本海地域の富栄養化の予備評価結果」 NPECでは、栄養塩の増加により増殖する植物プランクトンに注目し、 植物プランクトン量の指標とされ衛星からのリモートセンシングにより観測が可能なChl-a(Chl-a)に注目し、 リモートセンシングデータによる富栄養化のモニタリング手法を開発しました。 以下に、本手法を用いた環日本海地域の富栄養化状況の予備評価結果を示します。

(1) データ及び方法
富栄養化の評価に衛星Chl-aを用いるにあたっては、長期的で且つ精度の高いデータが不可欠である。 衛星リモートセンシングによるChl-aの定常的な観測は、1996年にNASDA(現JAXA)が打ち上げたADEOS衛星により搭載された海色センサ(OCTS)以降可能となっている。 ADEOS衛星の寿命は10ヶ月に満たなかったが、高い観測頻度及び解像度(1×1 km)による、高品質の海洋観測データを記録した。 その後、NASAの海色センサとして、SeaWiFSが1997年に、MODISが1999年と2002年に打ち上げられ、現在では10年以上の海色データが蓄積されている。 この内、1999年に打ち上げられたTERRA衛星に搭載されたMODISセンサには精度に問題があるとされている。 そのため、上述のTERRA衛星に搭載されたMODISデータを除く以下の表1に示す海色センサを用いることとした。 なお、Chl-aの推定アルゴリズムはNASAにより開発され、世界的にも標準的なアルゴリズムとして採用されているOcean Color3及び 4アルゴリズムを採用することとした。 また衛星Chl-aは、数日間スケールで大きく変動することが知られているため、 数日スケールのノイズを除去するため月平均データを作成し経年的な変化について考察することで、富栄養化の状況評価を行うこととした。 また、SeaWiFSとMODISのセンサが重複する期間について、各センサのデータを平均し合成した。

センサ及び衛星 OCTS on ADEOS
SeaWiFS on Orbview2
MODIS on Aqua
処理アルゴリズム NASA OC3 スタンダードアルゴリズム
NASA OC4 スタンダードアルゴリズム
期間 1997年1月~2009年12月
データ単位 月平均データ
対象海域 北緯25~50度、東経115~150度

富栄養化状況の評価を行うにあたっては、NOWPAP富栄養化状況評価手順書に示す方法に従い、 クロロフィルa濃度のレベルとそのトレンドの組み合わせよる6つの類型を用いた(図1)。 クロロフィルa濃度のレベルを決定する際には1997年から2009年の13年分の平均濃度を求め、 Bricker et al. (2003)によるクロロフィルa濃度のレベルで富栄養化の状況を定義した、 Middle( 5?20μg/L)の下限値5μg/L参照濃度として用い、 クロロフィルa濃度が高い海域(High status)と低い海域(Low Status)に分類することとした。 一方、トレンドは、各ピクセルにおける月平均値の中の各年における最大値を求め、 その経年的なトレンドをSen’s Slopeテストにより求め、10%水準で有意な増加傾向(Increase)、 有意な減少傾向(Decrease)、トレンドなし(No Trend)に分類することとした。

図1 NOWPAP富栄養化状況評価手順書に基づく6つの類型

(2) 結果と考察
図2に、NOWPAP エリアの1997 年から2009 年の13 年分の平均衛星クロロフィルa濃度を示す。 このデータからクロロフィルa 濃度が5μg/L より高いエリアとそれ以下のエリアに2分する。 この結果、クロロフィルa 濃度が5μg/L より高い海域は、沿岸部に分布することが明らかとなった(図3)。

図2 NOWPAPエリアの衛星クロロフィルa濃度の13年平均画像 図3 図2を基に5μg/Lで2分したクロロフィルa濃度が高い海域(赤茶)と低い海域(黄緑)

次に、図4に、1997 ~2009 年の月平均衛星クロロフィルa 濃度の年間最大値のトレンドを示す(青が有意な減少傾向、赤色が有意な増加傾向、白がトレンドなし)。 この画像を基に、NOWPAP 海域をIncrease、Decrease、No Trend のエリアに3分類した(図5)。

図4 各ピクセルにおけるクロロフィルa濃度のトレンド
青が減少傾向、白がトレンド無し、赤が増加傾向を示す。
図5 図4から3分したクロロフィルa濃度が増加している海域(赤茶色)、増減なその海域(黄色)、現象している海域(水色)

以上の結果を基に、NOWPAP 海域をNOWPAP 富栄養化状況評価に基づく6つの類型に分類し色分けした(図6)。 続いて、NOWPAP 富栄養化状況評価ケーススタディ事業において、各国から選定されているモデル海域を切り出した(図7)。


図6 衛星データによるNOWPAP海域の富栄養化状況予備評価結果

a. 富山湾

b. 九州北西部エリア

c. 揚子江エリア

d. 韓国鎮海エリア

e. ロシアピーター大帝湾
図7 NOWPAP各国のモデル海域による富栄養化状況予備評価結果
図のaからeをクリックしてください。Google Earth(TM)上で表示ができます。

衛星クロロフィルa 濃度とトレンドから求められた6類型のうち、 High-Increase(HI)、High None Trend(HN)、High-Decrease(HD)、Low-Increase(LI)の4つの類型までは、 富栄養化が進行中あるいは将来的に進行する可能性がある海域であると考えられる。
これらの衛星クロロフィルa濃度から得られた富栄養化予備評価結果を検証するため、 富山湾においてNOWPAP富栄養化手順書に基づく海域評価結果を比較した。  その結果、HIもしくはHNと判定された湾奥部~東岸部の沿岸に流入する神通川の窒素負荷量に経年的な増加傾向が認められたことや、 複数の地点で冬季DIN濃度の最近3カ年の平均値が参照値を上回ることがみられたことから、 衛星Chl-aから得られた予備評価結果の妥当性が現場観測データでも確認された。 現在、他の海域においても予備評価結果の検証がされているところである。
なおこの度の解析では、NASA の標準的なChl-a 推定アルゴリズムであるOcean Color 3 及び4 アルゴリズムを用いたが、 中国の長江河口海域等のような濁った海域ではこれらのOcean Color 3 及び4 アルゴリズムのChl-a 推定精度に限界があることが指摘され、 濁水に対応したクロロフィル濃度推定のアルゴリズムの開発がされているところである。
また、この度の解析では、沿岸域でより多くのデータを取得するため、 NASAが提供する海色センサデータの品質情報 は参照せず全てのデータを使用したが、今後はこれらの品質情報も参照しながら富栄養化状況評価予備評価マップを作成し検証する必要がある。