活用事例 > 尹宗煥 教授 インタビュー
尹宗煥 教授 九州大学 応用力学研究所所属 <主な研究テーマ> 2002.10~: 太平洋の海洋循環と水塊形成についての研究 2002.10~: The deep circualtion of the Japan Sea. 1997.02~: 流出重油の挙動予測モデルの開発 1996.04~2002.03: 日本海における水塊形成についての研究 |
海の環境把握において衛星データを利用していくことの必要性とは何ですか? | |
私の方では、海洋の循環把握や、その予測を行っており、海面高度、水温、風向き等のデータを利用しています。衛星データは、私の研究を行っていく上で必須であり、衛星データの情報を元に予測モデルの初期条件を更新し、予測しています。現地観測の情報は、すぐにモデルに反映することが難しいですが、衛星データは即時性が高く、海面高度を利用して表層の流れを広域に捉えることが可能なことから、予測モデルを構築する上で、不可欠となっています。 また、海洋循環のモデル結果のチェックに衛星海面高度データが用いられていますし、アルゴ計画では、中層フロートを全世界の海に約三千個展開しており、定期的に海面に浮上する際の塩分や水温の鉛直プロファイルを観測していますが、そのデータを収集するのに衛星通信が利用されています。 |
現在は、どのような研究を進めているのですか? | |
太平洋や日本海の海洋循環の研究を行っておりますが、特に日本海の海洋循環に関しては、5日先までを対象とした短期予報と2ヶ月先までを予報した長期予報に関する研究を行っており、長期予報に関しては衛星データを利用しています。対馬海流を対象とした研究では、定期旅客船を利用した流速、表面水温、塩分、クロロフイルのモニタリングを行っています。また、重油事故の際の移流・拡散に関するモデルを構築しており、現地観測から得られた重油の漂流結果と良く一致した結果が得られています。 また、日本海を対象に中層フロートを利用したモニタリングを行ったこともあります。 |
衛星データへの要望は何かありますか? | |
現在、衛星データは、海洋循環の2ヶ月予報に利用されています。5日予報に関しては、潮汐に関する情報を組み込んでいます。沿岸域に関しては、潮汐の影響が大きいのが現状ですが、衛星データの時間分解能の都合から、TOPEX / ERSの海面高度は、10日や30日毎ぐらいの間隔で提供されていますので、短期予報に組み込むことことができません。時間分解能が上がれば、短期予報への利用が期待できると考えています。 |
現在、興味を持っている研究は何ですか? | |
温暖化に伴う、日本海への影響を把握したいと考えています。日本海では、過去50年ぐらい前までは、深層までの対流がありましたが、過去50年間においてはその対流が殆ど無くなっており、世界の温暖化の影響を先駆けて受けているのではないかと考えています。これは、ミニ大洋と呼ばれる日本海で、過去50年間の構造変化を調べ、それをモデル化し、今後の変化を予測したいと考えています。最終的にそれは、地球全体の海洋環境の変動を予測することにつながると期待しています。海の鉛直循環は、生物環境や熱循環といった観点からも重要であり、鉛直循環が止まることで、気候に激変をもたらす可能性があります。気候には、海の鉛直循環が密接に関係しており、温暖化予測を行う上で鉛直循環の情報がヒントになると考えています。 他に循環モデルに関しては、精密さを上げていこうとしています。その結果、対馬海峡の西水路では、冬場にカルマン渦が発生する構造等、細かな現象を再現することが可能となりました。また、日本海の深層では、反時計周りの流れがあることが現地観測から知られていましたが、従来のモデルでは再現できず、循環モデルを精密化することにより、再現することができました。衛星データは、平均的に出現する循環パターンに関しては、比較できると考えています。 今後は東アジアの海を対象として、日本海、黄海、東シナ海の3つの海を結合してモデル化することで、例えば、三峡ダム建設による淡水の流れの変化を明らかにしようと思っています。淡水は、生物的にも、物理的にも重要であり、淡水が多くなると表層が軽くなることから、循環に影響するものと考えています。 |
衛星データを利用する上での課題は何ですか? | |
ブイの観測結果と衛星データの観測結果を比較しようと考えた場合、観測頻度を上げる必要があると考えています。また、TOPEXの海面高度は、ジオイドの精度が低いことから、誤差が大きくなってしまいます。現在は、海面高度の変動量の情報を使用しています。未だ、基本的な原理に関する課題が残っていると考えています。しかしながら、広域な情報を得ることができる衛星データは、海洋モニタリングにとって必須と考えています。 |
(インタビュー日: 2005年4月10日)