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中村浩二教授 インタビュー
中村浩二教授Photo 中村浩二 教授
金沢大学 学長補佐 環日本海域環境研究センター長 所属
<主な研究テーマ>
昆虫の固体群動態に関する研究
Q 中村先生のご専門は、昆虫の固体群動態に関する研究かと思いますが、 リモートセンシング技術への期待について教えてください。
Q 私は、京大の農学部で研究者としてのキャリアをスタートしました。 森に入ってのフィールドワークが主体の研究で、葉っぱを一枚ずつめくってその裏にいる昆虫を数えることをやっていました。 昆虫がどのくらいの期間の間に、卵がいくつ生まれて、いくつ孵る。 そして、いくつ幼虫になって、いくつ親になるかというプロセスを研究してきました。 それは、ある種の個体が空間の中で、どういう風に分布しているか、 つまり、100匹しかいないある種が、1匹ずつが分散しているのか、 あるいは100匹が全部集まって一ヶ所にいるのか(ホットスポット)は生物多様性を評価する上でも大事な情報になります。 それを調べようと思うと、ある程度上から見て、昆虫の住処である植生の分布を知り、 その植生の分布の中で昆虫がどのように分布しているかを知ると言うことが大事なことになります。 ある時、リモートセンシングや航空写真で宇宙から植生や樹種の情報が広範囲の面として、そこそこの精度で把握が可能であるということを知りました。 フィールドワークを主体とする我々の研究では、調査可能なサンプル数や空間範囲に限界があり、ある点の情報しか取得できません。 そのため、フィールドのデータとリモートセンシングのデータを相互補完的に利用することができないかと考えているところです。
我々のような研究においても、リモートセンシング大きいスケールのデータを手に入れて、 その見方を教えてもらえばいろいろイマジネーションが湧いて、フィールド調査でやるべきことが浮かんでくると思うのです。 例えば、リモートセンシングデータで見て植生がものすごく変化している場所と殆ど変化していない場所があり、 そこで生息する昆虫にどのような違いがあるのかについてフィールドで調査するのもおもしろいかもしれません。 これができれば、リモートセンシングでみた植生や樹種の分類から、そこにいる昆虫の種類がどのくらい違うかという推定し、 森単位での全体的な生物量を把握することにつながるのかと思います。

Q リモートセンシング技術をさらに有効に利用するために何が必要でしょうか?
Q リモートセンシングでは、大まかな情報やその変動を把握することができますが、 それらの情報フィールド調査により裏付けがないことには使いものになりません。 陸、海も含め、リモートセンシングのデータベースは昔と較べて充実してきましたが、 検証のために必要なフィールド調査の情報がきちんとデータベース化されていません。 本学では、石川県内の行政機関等と共同でこれまで様々な活動を展開していますが、 各種行政調査で得られた貴重なフィールド調査のデータがきちんと一元管理されていないことがしばしあります。 これでは、リモートセンシングの情報がいくら充実しても結局は使えないということになってしまいます。 そういう意味では、リモートセンシングのデータを検証するために、 これまでのフィールド調査データの整理整頓が必要なのではないでしょうか。

Q 金沢大学では能登半島をフィールドに里山里海アクティビティに取り組んでいらっしゃいますが、 今後の研究の展望について教えてください。
Q 「里山里海アクティビティ」の背景は、 能登半島は多くの農山村地域と同じく過疎高齢化や耕作放棄地が目立つなど集落機能の弱体化が進み、 里山里海の荒廃が大きな課題となっています。 一方で、日本の都市部では自然志向、田舎への憧れ、食への関心など農山村地域へのさまざまなニーズが高まっています。 そんな都市のニーズを独自の風土・文化が息づいている能登に呼び込み、交流活動を通じて地域活動を活発化し、 都市と能登が一緒になって持続可能社会の能登モデルをつくることを目指し、 能登半島をフィールドに里山里海の保全活動や教育・研究の交流活動を通じて、地域を元気にしようとするプロジェクトです。
金沢大学の具体的なアクティビティとして、1990年10月、 角間キャンパスの恵まれた自然環境を大学の教育研究に活用するだけでなく、広く市民の学習の場として開放し、 様々な自然学習とボランティア活動プログラムを作成・実施するための「角間の里山自然学校」を発足させ、 生物多様性調査を行うことを中心に、地域の子供たちへの環境教育も実施しています。 それが「金沢大学里山里海プロジェクト」の始まりで、 角間の里山自然学校は大学の地域貢献活動の中核として展開し、大学を代表する事業となりました。 さらに飛躍するきっかけとなったのが2006年10月から実施している「能登里山マイスター」養成プログラムです。 これは学内だけでなく能登地区にも活動範囲を拡げ、珠洲市の協力を得て廃校となった校舎を活用し、 環境に配慮した農業人材の育成を目指しています。 また、2008年4月から石川県や国連大学高等研究所「いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット」と連携し、 日本における「里山・里海サブグローバル評価調査(SGA)」など里山・里海事業を積極的に展開しており、 私はこの里山プロジェクトの代表研究者として、また、科学評価パネルの共同議長として活動してきました。 このSGAの目標は、日本の里山里海で営々と続いてきた人々の営みと生態系保存の技術や知恵を国際基準で評価し、 世界へ発信することを目指したもので、 その成果は昨年(2010)10月10日に名古屋市で開催された「生物多様性条約第10回締結国会議(CBD/COP10)」の場で報告しました。  また、同年10月には金沢大学の地域連携の現場でもある 「能登オペレーティング・ユニット」という能登における教育と研究を地域と連携しながら支援する組織を立ち上げました。
今後の研究課題の一つに、これまでの成果や整えてきた環境を基盤として、 また、日本の里山・里海評価(Japan Satoyama Satoumi Assessment :JSSA) で地理的に分けられた5つのクラスター(地域グループ)の1つである「北信越クラスター」を対象として、 金沢大学でこれまで実績のない里海に関する研究についても取り込んでいきたいと考えています。 里山の概念はかなり古く(17世紀)からあり、多くの研究がなされてきていますが、 里海の概念は極めて新しく21世紀になって初めて登場したもので、 「長期的に人手が加わることによって生産性と生物多様性が高くなった日本の沿岸域」を指しています。 この新しい概念に対する研究は、大学単体という形ではなく、 地域内外の研究者とのネットワークや連携の基に進めていきたいと考えています。 里山、里海それぞれの供給や調整サービスが枠内で終結されるものばかりでなく、 里山、里海のそれぞれの生態系が互いに影響し合うインターリンケージの存在もあり、 これらの関係が時空間の乖離などにより、明白な因果関係の把握が困難なものもあります。 これらの問題を解決していくには、沿岸や海洋研究などいろいろな分野の研究者が参加・連携してもらう必要があります。 また、技術的にも時空間を遡り再現できる航空写真や人工衛星写真を用いた時空間解析ができるリモートセンシングや GIS技術の導入も極めて重要と考えています。 現実に、金沢大学では、航空写真のアーカイブから能登半島の植生変遷マップを現在作成しようと始めたところです。
このような活動を通じて、能登オペレーティング・ユニットではフィールド研究と臨地教育を加速させるとともに、 その成果をどう地域に還元していけばよいかを考えるための本格的なリージョナルセンターにし、 また、「SATOYAMA、SATOUMI」として世界に発信する活動へと展開していきたいと考えています。
(インタビュー日: 2011年3月1日)